この反応の出発物質には末端アルケン(R-CH=CH₂、炭素-炭素二重結合が分子鎖の末端にある構造)が存在します。反応全体では、この末端アルケンがメチルケトン(-C(=O)CH₃)に変換されます。反応を進行させる主要な役割を担うのは、触媒であるPd(II)種(二価のパラジウムイオン)と、求核剤として働く水(H₂O)、そして最終酸化剤である酸素(O₂)です。
パラジウム(II)はルイス酸(電子対を受け取ることができる化学種)として機能し、末端アルケンの炭素-炭素二重結合のπ電子対を引き付けて配位結合を形成します。この配位によって、アルケンの電子密度が低下し、特に内部の炭素原子が電子不足(δ+、部分的に正電荷を帯びた状態)になり、求核剤(電子対を供与して結合を形成する化学種)からの攻撃を受けやすくなります。また、パラジウムの電気陰性度(Pauling スケールで2.20)が比較的高いため、アルケンからの電子供与を効果的に受け取ります。
この反応の鍵となる段階は、Pd(II)に配位して活性化されたアルケンに水分子が求核攻撃する「オキシパラデーション」です。H₂Oは、より置換度の高い(結合している原子が多い)内部炭素(α炭素)よりも、より立体的に空いている末端炭素(β炭素)を攻撃します。この際、マルコフニコフ則(付加反応において、水素原子がより多くの水素原子を持つ炭素に結合し、求核剤の断片がより多くのアルキル置換基を持つ炭素に結合する規則)に従い、水分子の酸素原子は末端炭素に付加し、Pdは内部炭素に結合した中間体が生成します。
まず、Pd(II)の空の軌道が、末端アルケンの炭素-炭素二重結合のπ電子対を受け取ることで配位結合を形成します。
次に、Pdに配位して電子不足になったアルケンの内部炭素へ、水分子の酸素原子の孤立電子対が求核攻撃します。同時に、アルケン二重結合のπ電子対が末端炭素とPdの間にσ結合を形成します。このとき水分子の酸素原子からプロトンが脱離します。
続いて、生成したPd結合アルキル中間体において、Pdに隣接する炭素(β位)上の水素原子がσ電子対ごとPdに移動し、エノールと呼ばれる不安定な中間体が生じます。このとき、Pdと炭素の結合のσ電子対は炭素-炭素二重結合のπ電子対を形成します。
最終的に、このエノールが水溶液中で酸または塩基の触媒作用により速やかにケト型へと互変異性化(分子内で水素原子とπ結合の位置が移動する異性化)し、安定なケトンへと変換されます。
この反応によって、出発物質の末端アルケン部位がメチルケトンへと選択的に変換され、2-(2-オキソプロピル)シクロヘキサノンが得られます。