この反応の主役は、0価のパラジウム(Pd(0))触媒、アリール臭化物(OHC-C₆H₄-Br)の炭素-臭素結合、そしてフェニルボロン酸((HO)₃B⁻-C₆H₅)です。また、触媒サイクルを動かすために炭酸ナトリウム(Na₂CO₃)のような塩基も重要です。
Pd(0)は電子が豊富な金属であり、アリール臭化物の炭素-臭素(C-Br)結合に電子を供与することで、この比較的弱い結合を切断して自身に挿入できます。アリール臭化物上のホルミル基(CHO)のような電子吸引基は、この酸化的付加をさらに有利にします。また、ボロン酸はそのままでは反応しにくいですが、塩基によって「アート錯体」という負電荷を持つ形に活性化されると、ホウ素-炭素(B-C)結合が弱まり、アリール基のパラジウムへの移動が容易になります。最終的には、非常に安定な炭素-炭素(C(sp²)-C(sp²))結合が形成されることによる大きなエネルギー利得が、反応全体の駆動力となります。
この反応は主に3つの段階からなる触媒サイクルで進行します。まず、Pd(0)がアリール臭化物のC-Br結合に挿入される「酸化的付加」。次に、活性化されたアリールボロン酸のアリール基がPd上の臭素と交換される「トランスメタル化」。そして最後に、Pd上に揃った2つのアリール基が結合を形成し、Pd(0)が再生する「還元的脱離」です。これらの段階で、C-Br結合、B-C結合が切断され、Pd-C結合や最終的なC-C結合が形成されます。反応全体の駆動力は、強力なC(sp²)-C(sp²)結合が形成されることによる大きな熱力学的利得です。
まず、Pd(0)の充満したd軌道にある孤立電子対が、アリール臭化物の炭素-臭素結合の反結合性軌道(σ*軌道)の炭素側を攻撃します。これにより炭素-臭素結合が切断され、その結合電子対は臭素原子へ移動し、臭素はパラジウムに配位します。次に、塩基によって活性化されたボロン酸のアリール-ホウ素(Ar'-B)結合の電子対が、パラジウム上の空のd軌道に攻撃し、同時にパラジウム-臭素(Pd-Br)結合の電子対が臭素原子へ移動し脱離します。これにより2つのアリール基がパラジウム上に揃います。最後に、パラジウム上の2つのアリール基が立体的に近接したシス配置になり、一方のアリール-パラジウム(Ar-Pd)結合電子対が、もう一方のアリール基の炭素を攻撃し、新たな炭素-炭素結合を形成します。このとき、もう一方のアリール-パラジウム(Ar'-Pd)結合電子対はパラジウム中心へ戻り、Pd(0)触媒が再生されます。
この反応では、アリール臭化物とアリールボロン酸の2つのアリール基が新たな炭素-炭素結合で連結され、4-ホルミルビフェニルが生成します。反応に使用されたPd(0)触媒は再生され、繰り返し反応を触媒することができます。
📚 参考文献
[4] Negishi, E. (Ed.) Handbook of Organopalladium Chemistry for Organic Synthesis; Wiley-Interscience, 2002.