A074 — Peterson オレフィン化

Peterson オレフィン化
predict モード — 生成物(ゴール)から電子移動の経路を予測しよう
📄 問題(反応式の原図)問題 A074
出発物質
シクロヘキサノン(cyclohexanone) (6 員環ケトン。C=O をもつ)
  • 試薬(Step 1) Me₃SiCH₂MgBr(トリメチルシリルメチルマグネシウムブロミド)
  • (Grignard 試薬。α 位に SiMe₃ をもつカルバニオン等価体)
  • 溶媒・条件(Step
  • 1)
  • Et₂O(ジエチルエーテル)、reflux(還流) (Grignard 反応の標準条件)
  • 試薬(Step 2) NaH(水素化ナトリウム) (強塩基。OH を脱プロトンして脱離を駆動)
  • 溶媒・条件(Step
  • 2)
  • THF(テトラヒドロフラン)、reflux(還流)
生成物(ゴール)
メチレンシクロヘキサン(methylenecyclohexane) (C=O が C=CH₂ に変換されたアルケン。A069 の Wittig 反応と同じ生成物)
Tier 1 注目すべき官能基/原子
このPetersonオレフィン化反応において、最初に注目すべきは出発物質の「シクロヘキサノン」が持つカルボニル基(C=O)です。また、試薬である「Me₃SiCH₂MgBr」は、α位にトリメチルシリル基(SiMe₃)を持つGrignard試薬であり、そのα位の炭素が強い求核性を持つカルバニオンとして機能します。
Tier 2 電子論的根拠
シクロヘキサノンのカルボニル基において、酸素原子は炭素原子よりも電気陰性度が高いため、C=O結合の電子は酸素原子側に引き寄せられ、カルボニル炭素はわずかに正に帯電(δ+)しています。一方、Me₃SiCH₂MgBrのα位の炭素は、炭素-マグネシウム結合の極性により、電子密度が高くカルバニオン性を示し、強力な求核剤(電子対を与えて結合を形成する種)として振る舞います。このδ+のカルボニル炭素へ、電子豊富なカルバニオンが引き寄せられて反応が開始します。次に、生成したβ-ヒドロキシシランのヒドロキシ基(OH)は、NaHという強塩基によって脱プロトン化(プロトンを奪われること)されます。これにより、酸素原子が負電荷を持つアルコキシド(O⁻)となり、その求核性が著しく向上します。最終段階では、ケイ素原子が酸素原子に対して高い親和性を持つため、O⁻とSiの間に強固な結合が形成され、これがSi-C結合を切断する強力な駆動力となります。 [出典: 2章 p6]
Tier 3 律速段階・鍵結合
この反応では、最初のGrignard試薬によるカルボニル炭素への求核攻撃と、それに続く炭素-炭素結合の形成が重要なステップです。特に、最終的な反応の駆動力となるのは、β-ヒドロキシシランが脱プロトン化されて生じたアルコキシドの酸素原子と、分子内のケイ素原子との間に、非常に安定で強い新しいSi-O結合が形成されることです。このSi-O結合の形成エネルギーが、最終的に目的の炭素-炭素二重結合を生成させる鍵となります。この過程で、もともとのC-O結合とC-Si結合が切断され、同時に新しいC=C二重結合が形成されます。
Tier 4 矢印の流れ(言語のみ)
まず、Me₃SiCH₂MgBrのα位の炭素の孤立電子対が、シクロヘキサノンのカルボニル炭素を攻撃し、同時にカルボニル炭素と酸素間のπ電子対が酸素原子へ移動します。これにより、アルコキシドマグネシウム塩(β-シリルアルコキシド)が生成します。次に、水素化ナトリウム(NaH)中のヒドリドイオンの孤立電子対が、このアルコキシドマグネシウム塩のヒドロキシ基のプロトンを攻撃し、O-H結合の電子対が酸素原子へ移動することで、O⁻(アルコキシド)が形成されます。最後に、生成したアルコキシドの酸素原子の孤立電子対が、同一分子内のケイ素原子を攻撃し、同時にC-O単結合の電子対が隣接するC-C結合の間へ移動してC=C二重結合を形成し、さらにC-Si単結合の電子対がケイ素原子へ移動してMe₃SiO⁻として脱離します。
Tier 5 生成物
このPetersonオレフィン化反応により、シクロヘキサノンのカルボニル基がC=CH₂というメチレン基に変換されたアルケンが生じます。この最終生成物は、メチレンシクロヘキサンです。
✅ 解答を見る(巻矢印つき機構・公式解説)解答 A074
📚 参考文献
[1] Ager, D. J. Org. React. 1990, 38, 1. https://doi.org/10.1002/0471264180.or038.01
[2] Peterson, D. J. J. Org. Chem. 1968, 33, 780. https://doi.org/10.1021/jo01266a061