この反応の出発物質である「3-クロロプロパンニトリル」には、塩素原子に結合した炭素原子が存在します。この炭素原子は塩素の強い電子吸引性により、部分的に正電荷を帯びています。もう一方の試薬である「チオウレア」には、硫黄原子と窒素原子にそれぞれ孤立電子対があり、特に硫黄原子は求核剤として機能します。
[出典: 解説レポート(初学者版・ver.2)- Step A]
チオウレアの硫黄原子は、酸素や窒素と比較して原子半径が大きく分極しやすい、すなわち「ソフトな求核剤」です。そのため、塩素原子によって分極し部分的に正電荷を帯びた、第一級アルキルクロリドの炭素原子(「ソフトな求電子剤」)への求核攻撃が得意です。塩素原子は、塩酸の共役塩基であり安定な塩化物イオンとして脱離するため、良好な脱離基として機能します(塩酸のpKaは約-7)。また、中間体であるイソチオウロニウム塩のC=NH結合の炭素は、周囲の原子の電子吸引効果により部分的に正電荷を帯びており、続くステップで水酸化物イオンからの求核攻撃を受けやすくなっています。最終的に脱離するチオラートイオン(RS⁻)は、その共役酸であるチオール(RSH)のpKaが約10であることから比較的安定なアニオンであり、尿素(ウレア)生成時のC=O結合形成による大きなエネルギー利得も、この反応の強力な駆動力となります。
[出典: 解説レポート(初学者版・ver.2)- Step A, なぜ S が C-Cl を攻撃するのか?, Step B, なぜ C-S 結合が切れるのか?, まとめ]
反応の第一段階(Step A)では、チオウレアの硫黄原子がアルキルクロリドのC-Cl結合中の炭素原子に求核攻撃し、S-C結合が形成されると同時にC-Cl結合が切断されます。このS_N2反応が中間体であるイソチオウロニウム塩を生成する鍵となる結合形成段階です。続く第二段階(Step B)では、水酸化物イオンがイソチオウロニウム塩のC=NH結合中の炭素原子に求核付加し、その後C-S結合が切断されます。このC-S結合の切断が、最終的にチオールを放出するための鍵となる結合切断段階です。
[出典: 解説レポート(初学者版・ver.2)- Step A, Step B]
まず、チオウレアの硫黄原子が持つ孤立電子対が、アルキルクロリド中のC-Cl結合の炭素原子を、塩素原子の反対側から攻撃します。このとき同時に、C-Cl結合の電子対が塩素原子へと移動し、塩化物イオンとして分子から脱離します。これにより、硫黄と炭素の間に新しいS-C結合が形成され、「イソチオウロニウム塩」という中間体が生成します。次に、水酸化ナトリウム由来の水酸化物イオンが持つ孤立電子対が、このイソチオウロニウム塩のC=NH結合の炭素原子を求核攻撃します。この付加によって一時的に四面体中間体が生じ、その後、炭素と硫黄の間のC-S結合の電子対が硫黄原子へと移動し、チオラートイオンとして脱離します。同時に、残りの部分がウレア(尿素)を形成します。最終的に、反応後に酸性処理を行うことで、生じたチオラートイオンがプロトンを受け取り、目的の化合物へと変換されます。
[出典: 解説レポート(初学者版・ver.2)- Step A, Step B]
この二段階の反応と続く酸性処理によって、出発物質である3-クロロプロパンニトリルは、塩素原子がチオール基(-SH)に置き換わった「3-メルカプトプロパンニトリル」へと変換されます。反応の副生成物としては、ウレア(尿素)が得られます。
[出典: 解説レポート(初学者版・ver.2)- 生成物, Step B]