試薬(EtO)₂P(=O)CH₂CO₂Et(ジエチルホスホノ酢酸エチル) (A070 の Arbuzov反応で合成したホスホネート試薬)NaH(水素化ナトリウム) (強塩基。α-H を脱プロトンしてカルバニオンを生成)
溶媒・条件benzene(ベンゼン)、rt(室温)to 200 °C (非プロトン性溶媒。段階的に加温)
後処理特に記載なし
ホスホネート試薬のリン原子とカルボニル基に挟まれたα位の炭素に結合する水素原子、そしてシクロヘキサノンのカルボニル基の炭素原子に注目しましょう。反応を開始させる強塩基である水素化ナトリウム (NaH) も重要です。
ホスホネートのα位の水素原子は、隣接するP=O基とエステル基の二つの強い電子吸引性(電子を引き寄せる性質)によって非常に酸性度が高くなっています。これにより、容易に脱プロトン化され、負電荷を帯びた炭素原子であるカルバニオン(carbon anion、炭素上に孤立電子対と負電荷を持つ化学種)が生成します。このカルバニオンは、両側の電子吸引基との共鳴(電子が非局在化して安定化する現象)によって安定化されます。一方、シクロヘキサノンのカルボニル基では、電気陰性度(電子を引き寄せる力の指標)の高い酸素原子が電子を強く引きつけるため、炭素原子は正に分極しており(δ+、電子不足の炭素)、求電子性(電子を求める性質)が高い状態にあります。
[出典: 解説レポート(初学者版・ver.2)Step A, Step B, 教科書 13章 p2, 教科書 5章 p2, 教科書 3章 p5]
まず、強塩基である水素化ナトリウムのヒドリドイオンがホスホネートの酸性度の高いα-水素を引き抜き、安定なカルバニオンを生成する段階が鍵となります。このカルバニオンが、電子不足なシクロヘキサノンのカルボニル炭素を求核攻撃し、新しい炭素-炭素結合が形成されることが反応の主要な段階です。最終的に、非常に安定なリン-酸素二重結合(P=O)を含むリン酸ジエステルアニオンが脱離することで、反応が不可逆的に進行し、全体を駆動します。
[出典: 解説レポート(初学者版・ver.2)Step A, Step B, Step C]
1. 水素化ナトリウムのヒドリドイオンの孤立電子対が、ホスホネートのα位の水素原子を攻撃し、その水素原子を引き抜きます。
2. 引き抜かれた水素原子とα炭素の間の結合を形成していた電子対は、α炭素上に移動し、カルバニオンが生成します。同時に水素ガスが発生します。
3. 生成したカルバニオンの孤立電子対が、シクロヘキサノンのカルボニル基の正に分極した炭素原子を求核攻撃(求核剤が求電子剤に電子対を与えて結合を形成する反応)します。これにより、新たな炭素-炭素結合が形成されます。
4. カルボニル基の炭素-酸素間のπ電子対は、より電気陰性度の高い酸素原子上に移動し、アルコキシド(負電荷を帯びた酸素原子)を形成します。この中間体はベタイン様中間体と呼ばれます。
5. アルコキシドの酸素原子の孤立電子対が、同一分子内のリン原子を攻撃し、酸素-リン結合を形成します。これにより、オキサホスフェタンと呼ばれる四員環中間体が生成します。
6. この四員環中間体が開裂する段階で、炭素-酸素結合と炭素-リン結合が協奏的に切れます。同時に、新しい炭素-炭素二重結合と、安定なリン-酸素二重結合を持つリン酸ジエステルアニオンが形成・脱離します。この開裂は、立体的要因により、特定の立体配置を持つアルケンを選択的に生成します。
[出典: 解説レポート(初学者版・ver.2)Step A, Step B, Step C]
上記の電子の流れにより、シクロヘキサノンのカルボニル酸素原子が炭素原子に置き換わり、アルケンが生成します。この反応の最終生成物は、(E)-エチル 2-(シクロヘキシリデン)アセタートと呼ばれるα,β-不飽和エステルです。HWE反応の特徴として、高いE選択性(トランス型アルケンを優先的に生成する性質)を示します。
[出典: 解説レポート(初学者版・ver.2)Step C]