この反応の出発物質であるアリールアルデヒドは、ベンゼン環にアルデヒド基(CHO)とフェノール性ヒドロキシ基(OH)を持っています。反応を進行させるために、過酸化水素(H₂O₂)と水酸化ナトリウム(NaOH)が試薬として使われます。
まず、水酸化ナトリウム(NaOH)は、出発物質のフェノール性ヒドロキシ基(OH)のプロトン(H⁺)を引き抜き、フェノラートアニオン(ArO⁻)を生成します。フェノール性OHのpKaは約10であり、NaOHによって容易に脱プロトン化されます。このフェノラートは、その孤立電子対を芳香環に供与することで、芳香環の電子密度を増加させる「電子供与基」(電子を押し出す効果を持つ官能基)として機能し、芳香環を電子豊富にします。
同時に、NaOHは過酸化水素(H₂O₂、pKa約11.6)からもプロトンを引き抜き、ヒドロペルオキシドアニオン(HOO⁻)を生成します。このHOO⁻は、元のH₂O₂よりも求核性(原子核を好む性質、つまり電子対を供与して新しい結合を作る能力)が高い優れた求核剤となります。
次に、このHOO⁻の末端酸素原子の孤立電子対が、アルデヒドのカルボニル炭素(C=Oの炭素)を求核攻撃します。カルボニル炭素は、隣接する電気陰性度の高い酸素原子に電子を引き寄せられるため、δ+(部分的にプラスの電荷を帯びる)に分極しており、求電子剤(電子を好む性質、つまり電子対を受け入れる能力を持つ原子や分子)として機能します。
反応の重要な段階は、Criegee型中間体(HOO⁻がアルデヒドに付加してできた四面体構造の中間体)における1,2-アリールシフト(芳香環全体が隣の原子に移動する反応)と、O-O結合の切断です。過酸化物(O-O)結合は約150 kJ/molと比較的弱いため、この結合が切れることが反応の駆動力の一つとなります。
さらに、電子豊富な芳香環(フェノラートのO⁻からの電子供与によって電子密度が高められている)が転位する能力が高いことも鍵となります。アルデヒド側の水素原子は転位能が最も低いため、芳香環が優先的に転位します。この転位によって、一時的に芳香族性が失われた三員環の中間体が生じます。
まず、出発物質のフェノール性酸素原子のO-H結合の電子対が水酸化物イオンの酸素原子へ移動し、フェノール性プロトンが脱離してフェノラートアニオンが生成します。同時に、過酸化水素のO-H結合の電子対も水酸化物イオンの酸素原子へ移動し、ヒドロペルオキシドアニオンが生成します。
次に、生成したヒドロペルオキシドアニオンの末端酸素原子の孤立電子対が、アルデヒドのカルボニル炭素原子を求核攻撃します。この攻撃に伴い、カルボニル炭素と酸素原子間のπ電子対は酸素原子上へ移動し、四面体中間体が形成されます。
その後、この四面体中間体において、電子豊富な芳香環の炭素-炭素結合の電子対が、隣接する酸素原子間のO-O結合を切断する方向へ移動します。この1,2-アリールシフトと同時に、O-O結合の電子対が外側の酸素原子へ移動し、水酸化物イオンが脱離基として離れていきます。これにより、一時的に三員環を含む中間体(エポキシド様中間体)が形成されます。
この三員環を含む中間体は不安定なため、速やかに開環し、芳香環のπ電子系が再構築されることで芳香族性が回復します。この開環によって、ギ酸エステル(アリールオキシカルボニル基と芳香環が結合した構造)が生成します。
最後に、塩基性条件で水酸化物イオンの孤立電子対が、生成したギ酸エステルのカルボニル炭素原子を求核攻撃します。これにより、カルボニルのπ電子が酸素原子へ移動し、テトラヘドラル中間体が形成されます。続いて、この中間体からアリールオキシドアニオンが脱離し、ギ酸イオンとフェノラートアニオンが生じます。このフェノラートアニオンは、反応後の酸処理によってプロトンを受け取り、フェノール性ヒドロキシ基に変換されます。
最終生成物はカテコール(1,2-ベンゼンジオール)です。これは、元のアルデヒド基がヒドロキシ基に変換され、出発物質のもう一つのヒドロキシ基と隣接する位置に二つのヒドロキシ基を持つベンゼン誘導体です。