出発物質はオキシムです。オキシムの C=N-OH 構造にある N-OH 部分がこの反応で最も注目すべき官能基です。特に、この N-OH 基の酸素原子は孤立電子対を持っており、反応初期に重要な役割を果たします。また、反応は酸性条件下で行われるため、試薬の硫酸が供給するプロトン(H⁺)も重要です。
[出典: 10章 p4]
N-OH基の酸素原子は孤立電子対を持っています。この酸素原子が、酸(硫酸)から供給されるプロトン(H⁺)に対して求核攻撃を行います。これにより、OH基はプロトン化され、N-OH₂⁺という良い脱離基に変換されます。OH⁻(水酸化物イオン)は非常に強い塩基であり、単独では脱離しにくい(悪い脱離基)ですが、プロトン化されて水分子(H₂O)の形になると、弱い塩基として安定に脱離できる(良い脱離基)ためです。
[出典: 5章 p9]
プロトン化されたN-OH₂⁺から水分子が脱離する際に、N原子の反対側(anti側)にある炭素-炭素結合の電子対がN原子へ協奏的に移動(1,2-シフト)します。この協奏的転位がこの反応の鍵であり、新しい炭素-窒素結合が形成されるのと同時に、水分子が脱離します。この過程で環状オキシムの環が拡大し、ニトリリウムイオン中間体という電子不足な種が生成します。
まず、硫酸から供給されるプロトンがオキシムのN-OH酸素の孤立電子対を攻撃します。これによりN-OHがN-OH₂⁺へとプロトン化されます。次に、このN-OH₂⁺から水分子が脱離すると同時に、OH₂基に対してanti側にある炭素-炭素結合の電子対が、N原子の空軌道へと1,2-シフトで移動します。この協奏的な電子対の移動によりニトリリウムイオン中間体が生じ、環が拡大します。その後、水分子の酸素の孤立電子対が、ニトリリウムイオンの正電荷を持つ炭素を求核攻撃し、中間体が生じます。この中間体からプロトンが脱離し、最終的に互変異性によってアミド構造が形成されます。
以上の段階を経て、最終的には環が一つ拡大した環状アミドが生成します。この反応では、シクロヘキサノンオキシムを基質としているため、特にε-カプロラクタムと呼ばれる7員環ラクタムが得られます。
[出典: 10章 p4]
📚 参考文献
[3] Donaruma, L. G.; Heldt, W. Z. Org. React. 1960, 11, 1. (Beckmann 転位の包 括的レビュー)