A054 — Baeyer-Villiger 酸化

Baeyer-Villiger 酸化
predict モード — 生成物(ゴール)から電子移動の経路を予測しよう
📄 問題(反応式の原図)問題 A054
出発物質
シクロヘキサノン (6 員環ケトン)
生成物(ゴール)
ε-カプロラクトン(7 員環ラクトン)
  • C=O と隣接 C の間に O が挿入され、ケトン → ラクトン(環状エステ
  • ル)に変換
試薬mCPBA(メタクロロ過安息香酸) (過酸 = ペルオキシ酸、酸素原子の供給源)
溶媒・条件CH₂Cl₂(ジクロロメタン)、rt(室温)
後処理洗浄(NaHCO₃ 水溶液で mCBA を除去)
Tier 1 注目すべき官能基/原子
この反応の出発物質であるケトンには、炭素と酸素が二重結合したカルボニル基(C=O)があります。また、試薬のmCPBA(メタクロロ過安息香酸)は過酸であり、酸素原子が結合した弱い酸素-酸素結合(O-O結合)を持ち、この酸素が最終的にケトンの分子内に挿入されます。 [出典: 10章 p3]
Tier 2 電子論的根拠
ケトンのカルボニル酸素は電気陰性度が高いため、その孤立電子対が反応系中のプロトン(H⁺)を引きつけ、カルボニル基がプロトン化されます。これにより、カルボニル炭素の電子不足性(δ+)がさらに増大し、求電子性が高まります。一方、mCPBAの末端の酸素は孤立電子対を持つ求核的な酸素であり、プロトン化されたケトンの求電子的なカルボニル炭素を攻撃するのに適しています。過酸の酸素-酸素結合は通常の炭素-炭素結合に比べて非常に結合エネルギーが小さく、切れやすい性質を持っています。 [出典: 10章 p3, 8章 p9]
Tier 3 律速段階・鍵結合
この反応の鍵となるのは、求核付加によって生成する四面体中間体からの1,2-アルキルシフトと、これと同時に起こる弱いO-O結合の切断です。カルボニル基の酸素に由来する孤立電子対が炭素-酸素二重結合(C=O)を再形成しようとする力が、隣接する炭素-炭素結合の電子対を酸素-酸素結合の内側の酸素へと押し出すように移動させます。この協奏的な電子の動きによって、O-O結合が切れ、安定なカルボン酸(mCBA)が脱離基として放出されるとともに、分子内にエステル結合が形成されます。
Tier 4 矢印の流れ(言語のみ)
まず、ケトンのカルボニル酸素の孤立電子対がプロトンに流れ込み、カルボニル基の酸素がプロトン化されます。これによりカルボニル炭素の求電子性が高まります。次に、mCPBAの末端酸素の孤立電子対がこの活性化されたカルボニル炭素を攻撃し、同時にカルボニル炭素-酸素二重結合のπ電子対がプロトン化された酸素へと移動します。この過程でCriegee中間体と呼ばれる四面体中間体が形成され、その後、プロトン移動により安定化されます。この中間体において、ヒドロキシ基の酸素の孤立電子対が炭素へと流れ込んで新たな炭素-酸素二重結合を再形成する動きと同時に、ケトン環の一部である隣接する炭素-炭素結合の電子対が酸素-酸素結合の内側の酸素へと移動します。これと協奏的に、酸素-酸素結合の電子対が切れてmCBA(メタクロロ安息香酸)として脱離します。
Tier 5 生成物
上記の反応により、元のケトンの炭素-炭素結合の間に酸素原子が挿入された構造を持つ環状エステル(ラクトン)が生成します。出発物質がシクロヘキサノンという6員環ケトンであるため、生成物は環が一つ拡大した7員環のε-カプロラクトンとなります。副生成物としてmCBA(メタクロロ安息香酸)が得られます。
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📚 参考文献
[1] Krow, G. R. Org. React. 1993, 43, 251. (解答記載文献 – 包括的レビュー; https://doi.org/10.1002/0471264180.or043.03)
[2] Baeyer, A.; Villiger, V. Ber. Dtsch. Chem. Ges. 1899, 32, 3625–3633. (Baeyer-Villiger 酸化の原著) 🔗 doi.org/10.1002/cber.189903203151
[3] Bolm, C.; Beckmann, O.; Correa, A.; Palazzi, C. Adv. Synth. Catal. 2002, 344, 906–912. (不斉 Baeyer-Villiger 酸化のレビュー; https://doi.org/10.1002/1615-4169(200209)344:8<906::AID-ADSC906>3.0.CO;2-I)
[4] Clayden, J.; Greeves, N.; Warren, S. Organic Chemistry, 2nd ed.; Oxford University Press, 2012, pp. 454–457. 🔗 doi.org/10.1093/hesc/9780199270293.001.0001