この反応の出発点となるのは、フタルイミドの窒素原子に結合した水素原子(N-H)と、ハロゲン化アルキルである塩化ベンジル(PhCH₂Cl)の炭素原子です。フタルイミドのN-Hは脱プロトンされやすい性質を持ち、塩化ベンジルの炭素原子は塩素原子の電子求引性により部分的な正電荷を帯びています。
フタルイミドのN-H結合は、隣接する二つのカルボニル基(C=O)による強い電子求引効果(誘起効果と共鳴効果)によって酸性度が高められています。これにより、通常のN-H結合よりもはるかに容易にプロトン(H⁺)を放出します。炭酸カリウム(K₂CO₃)のような弱塩基でも、このプロトンを引き抜き、窒素上に負電荷を持つアニオン(N⁻)を生成させることが可能です。生成したN⁻は、二つのC=O基との共鳴によって負電荷が分散し、安定化されています。一方、塩化ベンジルのC-Cl結合は、電気陰性度の大きい塩素原子が炭素から電子を強く引き寄せるため、炭素原子が部分的な正電荷(δ+)を帯び、求電子性を示します。
反応の最初の重要な段階は、フタルイミドから生成した窒素アニオンがハロゲン化アルキルを攻撃し、新しい炭素-窒素結合を形成する求核置換反応(SN2反応)です。この段階では、求核剤である窒素アニオンが、脱離基である塩素原子の反対側から、部分的な正電荷を帯びたハロゲン化アルキルの炭素原子に接近し、新たな結合を作りながら塩素原子が脱離します。このSN2反応は、フタルイミド骨格に一つのアルキル基を導入する鍵となる段階であり、全体のアルキル化プロセスにおいて律速段階の一つです。
[出典: 7章 p4]
まず、炭酸カリウム(K₂CO₃)の炭酸イオン(CO₃²⁻)の酸素の孤立電子対が、フタルイミドのN-Hプロトンを引き抜きます。これによりN-H結合の電子対が窒素原子上に残り、フタルイミドアニオンが生成します。次に、このフタルイミドアニオンの窒素原子の孤立電子対が、ハロゲン化アルキルである塩化ベンジルのベンジル位の炭素原子を攻撃し、同時にその炭素-塩素結合の電子対が塩素原子へ移動してCl⁻として脱離します。これにより、窒素にアルキル基が導入された中間体が生成します。その後、ヒドラジン(H₂NNH₂)の末端アミノ基の孤立電子対が、その中間体の一方のカルボニル炭素を求核攻撃し、C=Oのπ電子対が酸素原子へ移動して四面体中間体が形成されます。続いてプロトン移動が起こり、炭素-窒素(ベンジル側)結合が切断され、環が開いたヒドラジド中間体が得られます。最後に、このヒドラジド中間体の残ったヒドラジン由来のアミノ基の孤立電子対が、もう一方のカルボニル炭素を分子内攻撃し、C=Oのπ電子対が酸素原子へ移動し、環化生成物と目的の第一級アミンが遊離します。
最終的に、目的の一級アミンであるベンジルアミンと、副生成物として安定な五員環構造を持つフタルヒドラジドが生成します。フタルヒドラジドは沈殿として容易に分離できるため、純粋なベンジルアミンが得られます。