A007 — DCC/DMAP による Steglich エステル化
DCC/DMAP による Steglich エステル化
predict モード — 生成物(ゴール)から電子移動の経路を予測しよう
📄 問題(反応式の原図)

出発物質
フマル酸モノエチル (エチル水素フマラート)
EtO₂C–CH=CH–COOH
- Et = エチル基(ethyl) (CH₃CH₂– の略称)
生成物(ゴール)
フマル酸ジエステル(エチル tert-ブチルエステル)
EtO₂C–CH=CH–COO-t-Bu
試薬DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド) (縮合剤=カルボン酸を活性化する)Cy–N=C=N–Cy (Cy = シクロヘキシル基)DMAP(4-ジメチルアミノピリジン) (求核触媒=反応を加速する)t-BuOH(tert-ブタノール) (アルコール、エステルの片方になる)t-Bu = tert-ブチル基 ((CH₃)₃C– の略称)
溶媒・条件CH₂Cl₂(ジクロロメタン), rt(室温)室温で反応が進行する穏やかな条件
後処理DCU(ジシクロヘキシル尿素)をろ過で除去
この反応では、カルボン酸のカルボキシ基(-COOH)と、アルコールの水酸基(-OH)が結合して、エステル結合を形成します。この過程を促進するために、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)とDMAP(4-ジメチルアミノピリジン)が用いられます。DCCはその中心のN=C=N構造に注目すべき窒素原子を持ち、DMAPはピリジン環の窒素原子に孤立電子対を持ちます。
まず、カルボン酸の酸素-水素結合のプロトンが、DCCの窒素原子の孤立電子対へと移動します。DCCの窒素は、グアニジンに似た塩基性を持つため、pKaが約4-5であるカルボン酸のプロトンを容易に受け取ることができます。このプロトン移動により、DCCの中心炭素は正電荷を帯び(求電子性が増大し)、カルボン酸は共鳴安定化されたカルボキシラートアニオン(負電荷を帯びた酸素原子を持つ種)となります。
[出典: 4章 p5]
DCCは、カルボン酸のヒドロキシ基を「良い脱離基」を持つ活性中間体へと変換することで、カルボン酸の活性化剤として機能します。特に、カルボキシラートがプロトン化されたDCCの中心炭素を攻撃し、O-アシルイソ尿素という高活性な中間体を形成します。この中間体は優れた脱離基を持ちますが、嵩高いアルコールとの反応は遅いため、DMAPが「求核触媒」(反応によって消費されずに、反応速度を速める物質)として働きます。DMAPはO-アシルイソ尿素のカルボニル炭素を攻撃し、より反応性が高く、立体的に開けたアシルピリジニウム中間体を形成することが、反応を加速する鍵となります。さらに、副生成物であるジシクロヘキシル尿素(DCU)が溶媒に不溶な固体として析出し、系外に除去されることが、ルシャトリエの原理(平衡状態にある系に外部から変化を与えると、その変化を和らげる方向に反応が進むという原理)に基づき反応を不可逆的に進行させる大きな駆動力となります。
1. まず、カルボン酸の酸素-水素結合のプロトンが、DCCの窒素の孤立電子対へと移動し、カルボキシラートとプロトン化DCCが生成します。
2. 次に、このカルボキシラートの酸素の孤立電子対が、プロトン化DCCの中心炭素を攻撃し、同時にC=Nのπ電子対が窒素上へと移動して、O-アシルイソ尿素が形成されます。
3. 続いて、DMAPのピリジン窒素の孤立電子対がO-アシルイソ尿素のカルボニル炭素を攻撃し、C=Oのπ電子が酸素上へ移動して四面体中間体を経由し、尿素部分が脱離してアシルピリジニウム中間体が生じます。
4. その後、脱離した尿素アニオンがアルコールの酸素-水素結合のプロトンを引き抜き、アルコキシド(アルコールからプロトンが脱離して生成する負電荷を帯びた種)が生じると同時に中性の尿素が沈殿します。
5. このアルコキシドの酸素の孤立電子対が、アシルピリジニウム中間体のカルボニル炭素を攻撃し、C=Oのπ電子が酸素上へ移動して、別の四面体中間体(中央の炭素原子に4つの原子または置換基が結合した四面体構造を持つ中間体)が形成されます。
6. 最後に、この四面体中間体の酸素の孤立電子対がカルボニル結合を再形成し、同時にDMAPが中性脱離基として脱離して、目的の生成物が得られます。
反応の結果、フマル酸ジエステル(エチル tert-ブチルエステル)と呼ばれる種類の化合物が得られます。この生成物は、カルボン酸のカルボキシ基とアルコールの水酸基とが脱水縮合してエステル結合を形成したものです。反応サイクルを通じて脱離したDMAPは触媒として再生され、次の反応サイクルに再利用されます。
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📚 参考文献
[1] Neises, B.; Steglich, W. Org. Synth., Coll. Vol. VII; 1990, 93.