試薬エチレングリコール(HOCH₂CH₂OH) (1,2-ジオール)TsOH(p-トルエンスルホン酸) (触媒量の酸触媒)Ts = トシル基(tosyl) (p-CH₃C₆H₄SO₂– の略称)
溶媒・条件ベンゼン, reflux(加熱還流)Dean-Stark 装置で水を除去 (平衡を生成物側にずらす)
後処理特になし
この反応の出発物質はカルボニル基を持つケトンと、二つのヒドロキシ基を持つエチレングリコールです。酸触媒としてp-トルエンスルホン酸(TsOH)が用いられます。まず、ケトンのカルボニル酸素と炭素、そしてエチレングリコールのヒドロキシ基の酸素原子に注目します。
酸触媒であるH⁺(プロトン)がケトンのカルボニル酸素の孤立電子対に結合すると、酸素が正電荷を帯びます。これにより、カルボニル炭素の電子不足が著しく強まり、求電子性(電子を求める性質)が高まります。この活性化されたカルボニル炭素に対して、エチレングリコールのヒドロキシ基の酸素原子が持つ孤立電子対が求核攻撃(電子を供与して結合を形成する攻撃)を行います。カルボニル酸素の高い電気陰性度と、プロトン化によるπ電子のさらなる引き寄せがこの一連の電子移動の駆動力です。
[出典: 10章 p3]
この反応は酸触媒によってカルボニル酸素がプロトン化されることから始まります。このプロトン化によってカルボニル炭素は求電子的に活性化され、通常では弱い求核剤であるエチレングリコールのヒドロキシ基が攻撃できるようになります。この最初のプロトン化とそれに続く求核攻撃が、反応を進行させる上で最も重要な段階であり、新しい炭素-酸素結合が形成される鍵となります。その後、分子内で水が脱離し、さらに分子内での求核攻撃による環形成が続きます。
[出典: 10章 p3]
まず、TsOHから供給されるH⁺がケトンのカルボニル酸素の孤立電子対に攻撃され、O-H結合が形成されます。これにより、カルボニル炭素はより求電子的に活性化されます。次に、エチレングリコールの一方のOHの酸素の孤立電子対が、この活性化されたカルボニル炭素を攻撃し、同時にC=Oのπ電子がカルボニル酸素へ移動します。これにより、ヘミアセタールという中間体(CにOHとORが結合した構造)が生成します。その後、中間体内でプロトンが移動し、一方のOH基がH⁺を受け取り、水として脱離できる形になります。このプロトン化されたOHが水として脱離すると、隣接するエーテル酸素の孤立電子対がカルボニル炭素へ移動し、オキソカルベニウムイオン(C=O⁺を持つカチオン)が形成されます。最後に、同じ分子内のもう一方のOHの酸素の孤立電子対がこのオキソカルベニウムイオンの炭素を分子内攻撃し、5員環が形成されます。その後、生成した中間体からH⁺が水分子によって引き抜かれ、H⁺は再生されます。
この多段階の反応を経て、カルボニル基が二つの酸素-炭素結合で保護された環状アセタール(1,3-ジオキソラン)である1,4-ジオキサスピロ[4.5]デカンが生成します。この保護基は酸性条件以外には安定であり、多段階合成においてカルボニル基を一時的に不活性化する代表的な手法として利用されます。生成した水はDean-Stark装置によって系外に除去されるため、反応の平衡は生成物側に大きく傾き、高収率で目的の環状アセタールが得られます。
📚 参考文献
[2] Greene, T. W.; Wuts, P. G. M. Protective Groups in Organic Synthesis, 4th ed.; Wiley, 2007, pp. 293–368.
[4] March, J.; Smith, M. B. March's Advanced Organic Chemistry, 7th ed.; Wiley, 2013.