本反応は、カルボン酸のカルボキシル基(-COOH)から出発します。まず、脱プロトン化されたカルボキシレートアニオンの酸素原子と、活性化試薬であるクロロギ酸エチル(ClCO₂Et)のカルボニル炭素が関与します。次に、アジ化ナトリウム(NaN₃)から供給されるアジドイオン(N₃⁻)の末端窒素原子が、中間体である混合酸無水物のカルボニル炭素を攻撃します。最終段階では、アシルアジドのアジド基(-N₃)と、カルボニル炭素に結合しているR基(1-フェニル-1-シクロペンチル基)が重要な役割を果たします。
まず、トリエチルアミン(Et₃N)がカルボン酸のヒドロキシルプロトンを引き抜き、カルボキシレートアニオンを生成します。これはEt₃Nがカルボン酸より強い塩基であるためです。このカルボキシレートの酸素原子は孤立電子対を持つ求核剤として、クロロギ酸エチルのカルボニル炭素(酸素と塩素という電気陰性度の高い原子に挟まれ、強く電子不足になっているδ+炭素)を攻撃します。これにより、塩素イオン(Cl⁻)が安定な脱離基として脱離します。次に、アジドイオンの末端窒素が求核攻撃を行いますが、混合酸無水物には2つのカルボニル基が存在するため、より電子不足なカルボニル炭素(エトキシ基による共鳴供与を受けない側)を選択的に攻撃します。これにより、エチルカルボナートアニオン(EtOCO₂⁻)が脱離基として離れます。最終段階では、アシルアジドが加熱されることで窒素分子(N₂)が放出されます。N₂は極めて安定な分子であり、その生成は反応の強力な駆動力となります。
[出典: 20章 p1]
本反応において、最も重要な駆動力を持つ律速段階は、アシルアジドが加熱によって窒素分子(N₂)を放出する段階です。N₂はN≡N三重結合を持ち、その結合エネルギーは非常に大きいため、安定な分子として脱離することが反応を強く推進します。このN₂の脱離と同時に、アシルアジドのカルボニル炭素に結合しているR基(1-フェニル-1-シクロペンチル基)が、炭素から隣接する窒素原子へ結合電子対ごと1,2-シフトします。このR基の転位とN₂の脱離は協奏的(同時に)に進行し、このプロセスを通じて新しいR-N結合が形成され、累積二重結合を持つ官能基が生じます。
まず、トリエチルアミンの窒素原子の孤立電子対が、カルボン酸のヒドロキシル基のプロトンを引き抜きます。生成したカルボキシレートアニオンの酸素原子の孤立電子対が、クロロギ酸エチルのカルボニル炭素を求核攻撃し、同時にカルボニルπ電子対が酸素原子へ移動します。その後、塩素イオンがC-Cl結合の電子対ごと脱離し、C=Oπ結合が再形成されて混合酸無水物が生成します。次に、アジドイオンの末端窒素の孤立電子対が、混合酸無水物のより求電子的なカルボニル炭素を攻撃し、同時にカルボニルπ電子対が酸素原子へ移動します。続いて、酸素原子上の電子対がC=Oπ結合を再形成し、同時にエチルカルボナートアニオンがO-C結合の電子対ごと脱離してアシルアジドが生成します。最後に、加熱によってアシルアジドのC-R結合の電子対が炭素からアジド基の内側の窒素原子へ1,2-シフトし、同時にアジド基内のN-N結合の電子対が窒素分子として脱離します。これにより、炭素原子を一つ失った生成物が生じます。
本反応の最終生成物は、1-フェニル-1-シクロペンチルイソシアネートです。この化合物は、元のカルボン酸から炭素原子が一つ少ないイソシアネート(R-N=C=O)骨格を持ちます。
📚 参考文献
[3] Smith, M. B.; March, J. March's Advanced Organic Chemistry, 6th ed.; Wiley, 2007, pp. 1607–1610.