試薬Hg(OTf)₂(トリフルオロメタンスルホン酸水銀(II)、1 mol%) (触媒)H₂O(水、求核剤)
溶媒・条件MeCN–CH₂Cl₂(アセトニトリル-ジクロロメタン)/ rtMeCN = CH₃CN(アセトニトリル)OTf = トリフレート(CF₃SO₃⁻、非常に良い脱離基)
後処理特になし(触媒的反応)
この反応で最初に注目すべきは、基質のアルキンが持つ炭素-炭素三重結合(C≡C)のπ電子と、触媒であるHg(OTf)₂中の水銀(II)イオン(Hg²⁺)です。これらが最初の相互作用を起こします。また、求核剤として作用する水の酸素原子の孤立電子対も重要な役割を果たします。
Hg²⁺は強力なルイス酸(電子対受容体)として作用し、アルキンのπ電子を引き付けて三重結合を活性化します。OTf⁻(トリフレート)は非常に安定な脱離基であるため、Hg²⁺の求電子性を最大限に高めます。水(H₂O)は酸素原子の孤立電子対を持つ求核剤(電子対供与体)として働きます。この反応はMarkovnikov則に従い、水分子はアルキル置換基を持つ内部炭素(より置換された炭素)に付加します。これは、内部炭素が部分的カチオン性(δ+)をより安定化できるため、求核剤であるH₂Oが優先的に攻撃するためです。
この反応の駆動力は、Hg²⁺触媒がアルキンC≡Cのπ電子に配位して三重結合を活性化し、そこに水分子が求核攻撃してC–O結合を形成する最初のステップです。Hg²⁺がアルキンに配位することで、アルキンの電子密度が低下し、特にアルキル置換基を持つ内部炭素がより電子不足となり、水分子の求核攻撃を受けやすくなります。このC–O結合形成が律速段階であると考えられます。
[出典: 10章 p9]
まず、アルキンの炭素-炭素三重結合のπ電子対が、Hg(OTf)₂のHg²⁺に配位します。これにより、ビニル水銀中間体が形成され、アルキンの内部炭素が電子不足になります。次に、水分子の酸素原子の孤立電子対が、この電子不足になった内部炭素を攻撃し、新たな炭素-酸素結合が形成されます。その後、プロトン(H⁺)が脱離して、Hg原子が結合したエノール(ビニル水銀エノール)が生成します。
続いて、このエノールからケト型への互変異性化が起こります。エノールOH基のプロトン(H⁺)が移動し、酸素原子の電子対が炭素-酸素二重結合を形成し、同時に炭素-炭素二重結合のπ電子対が、元の末端炭素にプロトン(H⁺)を受け入れます。これにより、C=O結合を持つケトンが生成します。最後に、H⁺によるプロトノリシス(プロトン分解)によって炭素-Hg結合が切断されます。この過程で、炭素-Hg結合の電子対がH⁺を捕捉して炭素-H結合が形成され、同時にHg(OTf)₂触媒が再生されます。
最終生成物は、4-フェニル-2-ブタノン(メチルケトン)です。これは、アルキンに水分子がMarkovnikov配向で付加し、生成したエノールが熱力学的に安定なケトンへと互変異性化した結果、得られます。
📚 参考文献
[1] Nishizawa, M.; Skwarczynski, M.; Imagawa, H.; Sugihara, T. Chem. Lett. 2002, 12. (Hg(OTf)₂ 触媒によるアルキン水和の原著論文)