A005 — ニトリルへのグリニャール付加と酸加水分解によるケトン合成

ニトリルへのグリニャール付加と酸加水分解によるケトン合成
predict モード — 生成物(ゴール)から電子移動の経路を予測しよう
📄 問題(反応式の原図)問題 A005
出発物質
メトキシアセトニトリル(methoxyacetonitrile)
MeOCH₂CN
  • MeO = メトキシ基(methoxy) (CH₃O– の略称)
  • CN = ニトリル基(シアノ基) (C≡N 三重結合)
生成物(ゴール)
メトキシアセトフェノン(methoxyacetophenone)
MeOCH₂COPh
  • COPh = フェニルケトン基 (C≡N がグリニャール付加+加水分解で C=O に変換
  • された)
試薬PhMgBr(フェニルマグネシウムブロミド) (グリニャール試薬)Ph = フェニル基(phenyl) (ベンゼン環 C₆H₅– の略称)
溶媒・条件Et₂O(ジエチルエーテル), 0 °C → rt(室温)Et₂O = ジエチルエーテル (非プロトン性溶媒)
後処理aq H₂SO₄(希硫酸水溶液) (イミンの加水分解でケトンを得る)aq = aqueous (水溶液の意味)
Tier 1 注目すべき官能基/原子
この反応では、まず求核剤として働くグリニャール試薬と、求電子剤として働くニトリル基が反応します。ニトリル基(C≡N 三重結合を持つ有機化合物)は炭素と窒素の間に三重結合を持つ官能基です。グリニャール試薬(R-Mg-X の構造を持つ有機金属試薬で、R基が強い求核剤として働く)のフェニル基の炭素が、ニトリルの炭素を攻撃します。その後、生成した中間体が酸性水溶液による加水分解を受け、最終的にケトン(カルボニル基(C=O)の炭素に2つの炭素原子が直接結合している有機化合物)が生成します。
Tier 2 電子論的根拠
グリニャール試薬のフェニル基(Ph)は炭素上に負電荷の性格を持つ(カルバニオン:負電荷を持つ炭素原子)ため、非常に強い求核剤(電子対を与えて新しい結合を作る化学種)として作用します。一方、ニトリル基の炭素(C≡N の C)は、隣接する電気陰性度(原子が共有結合の電子を引き寄せる強さの尺度)の高い窒素原子に電子を引き寄せられることで、部分的な正電荷(δ+)を帯び、求電子剤(電子対を受け入れて新しい結合を作る化学種)として機能します。このため、強い求核剤であるグリニャール試薬がニトリルの求電子的な炭素を攻撃します。その後の加水分解ステップでは、水の酸素原子の孤立電子対が求核剤となり、イミニウムイオン(窒素原子に正電荷を帯びた炭素-窒素二重結合を持つ化学種)の炭素を攻撃します。この際、イミニウムイオンの炭素は、プロトン化されることで正電荷が増大し、求電子性が高まるため、比較的弱い求核剤である水でも攻撃が可能になります。さらに、水が付加してできた中間体では、アミノ基(-NH₂ の構造を持つ官能基)が水酸基(-OH の構造を持つ官能基)よりも塩基性(プロトンを受け取る能力の強さを示す性質)が高いため、酸性条件下ではアミノ基が優先的にプロトン化されます。これにより、アンモニア(NH₃)という良い脱離基(化学反応の際に分子から離れていく原子または原子団のこと)が形成され、その後の脱離反応を促進します。 [出典: 有機電子論解説-有機章 p2, 10章 p9]
Tier 3 律速段階・鍵結合
この反応の最初の重要な段階は、グリニャール試薬のフェニル基の炭素がニトリルの炭素を攻撃し、新たな炭素-炭素結合が形成されることです。これにより、イミンアニオン(炭素-窒素二重結合を持つが窒素が負電荷を帯びた中間体)という中間体が生成します。このイミンアニオンは脱離基を持たないため、エステル反応のようにさらなるグリニャール試薬の付加が起こりにくく、反応が1回で止まるという点で重要な中間体です。その後の酸処理では、イミンアニオンがプロトン化されて生成するイミニウムイオンへの水の求核付加が鍵となります。イミニウムイオンは窒素原子が正電荷を持つため、その炭素の求電子性が高まり、水分子の攻撃を受けやすくなります。最終的に、アミノ基がプロトン化されて良い脱離基であるアンモニアが脱離し、同時にカルボニル(C=O)二重結合が形成されることで、より安定なケトンが生成します。
Tier 4 矢印の流れ(言語のみ)
まず、グリニャール試薬のフェニル基の炭素原子の孤立電子対が、ニトリルの三重結合の炭素原子を攻撃し、同時にニトリルの三重結合を構成するπ電子対の1本が窒素原子上へ移動して負電荷を帯びます。これにより、炭素-炭素結合が形成され、イミンアニオンのマグネシウム塩が生成します。 次に、酸性条件下で、このイミンアニオンの窒素原子の孤立電子対が水分子からプロトンを受け取ります。さらにプロトンを受け取ってイミニウムイオンが形成されます。 続いて、水分子の酸素原子の孤立電子対が、このイミニウムイオンの炭素原子を攻撃し、同時に炭素-窒素二重結合を構成するπ電子対が窒素原子上へ移動します。これにより、ヘミアミナール(同じ炭素原子に水酸基とアミノ基が結合した中間体)が生成します。 その後、ヘミアミナールのアミノ基の窒素原子の孤立電子対が水分子からプロトンを受け取り、-NH₃⁺へとプロトン化されます。 さらに、水酸基の酸素原子の孤立電子対が隣接する炭素原子に向かって移動し、炭素-酸素二重結合を再形成すると同時に、プロトン化されたアミノ基(-NH₃⁺)がアンモニア(NH₃)として脱離します。これにより、プロトン化されたケトンが生成します。 最後に、水分子の酸素原子の孤立電子対が、このプロトン化されたケトンの酸素原子に結合しているプロトンを引き抜き、中性のケトンが生成します。
Tier 5 生成物
この一連の反応を経て、最終生成物であるメトキシアセトフェノンが得られます。この化合物は、メトキシ基とフェニル基を持つケトンであり、メトキシアセトニトリルのニトリル炭素にフェニル基が導入され、さらにそのニトリル基が加水分解されてカルボニル基に変換されたものです。
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📚 参考文献
[1] Moffett, R. B.; Shriner, R. L. Org. Synth., Coll. Vol. III, 1955, 562.
[2] Clayden, J.; Greeves, N.; Warren, S. Organic Chemistry, 2nd ed.; Oxford University Press, 2012, pp. 228-240. 🔗 doi.org/10.1093/hesc/9780199270293.001.0001
[3] March, J.; Smith, M. B. March's Advanced Organic Chemistry, 7th ed.; Wiley, 2013.