この反応の出発物質はベンズアルデヒドとN-フェニルヒドロキシルアミンです。ベンズアルデヒドにはカルボニル基(C=O)があり、その炭素原子は求電子的な性質を持ちます。一方、N-フェニルヒドロキシルアミンには窒素原子があり、その孤立電子対が求核剤として機能します。また、この窒素原子にはヒドロキシル基(-OH)も結合しています。
カルボニル基の酸素原子は炭素原子よりも電気陰性度が高いため、カルボニル炭素原子は部分的に正電荷(δ+)を帯び、電子不足の状態にあります。これはI効果(誘起効果)と呼ばれる現象です。そのため、N-フェニルヒドロキシルアミンの窒素原子の孤立電子対(電子豊富な部分、求核剤)が、ベンズアルデヒドのカルボニル炭素原子(電子不足の部分、求電子剤)に引き寄せられ、最初の反応が開始されます。
[出典: 10章 p1]
本反応の鍵となる中間体はニトロン(nitrone)の形成です。ニトロンはC=N⁺-O⁻という構造を持つ、N原子に正電荷、O原子に負電荷が分離した双性イオン(zwitterion)です。このニトロンが、3つの原子(C, N, O)にわたって4π電子が非局在化した1,3-双極子(1,3-dipole)として機能し、次の環化反応の駆動力となります。ニトロンとアルケンが協奏的に反応し、新しい2つのσ結合(炭素-炭素結合と酸素-炭素結合)を同時に形成して5員環を構築する部分が、律速段階の一つと考えられます。
まず、N-フェニルヒドロキシルアミンの窒素原子の孤立電子対がベンズアルデヒドのカルボニル炭素原子を求核攻撃し、同時にカルボニル炭素-酸素二重結合のπ電子対が酸素原子上へ移動します。これにより、新たな窒素-炭素単結合を持つ四面体中間体が形成されます。次に、この中間体内でプロトン移動が起こり、酸素原子がプロトンを受け取りヒドロキシル基になり、窒素原子からはプロトンが脱離して孤立電子対を形成します。その後、窒素原子の孤立電子対が炭素原子と二重結合を形成するように電子が動き、同時にヒドロキシル基が水分子として脱離します。この脱水反応によって、炭素-窒素二重結合と、窒素原子に正電荷、酸素原子に負電荷を持つニトロンが生成します。最後に、このニトロンの負電荷を持つ酸素原子の孤立電子対がスチレンの末端炭素原子を攻撃し、同時にニトロンの炭素原子-窒素原子間のπ電子対がスチレンのフェニル基が結合した炭素原子へ移動して新たな炭素-炭素結合を形成し、さらにスチレンの炭素-炭素二重結合のπ電子対がニトロンの窒素原子へ移動することで、窒素原子の正電荷を解消しつつ、新たな窒素-酸素結合が環内で協奏的に形成され、5員環が完成します。
最終的に、ニトロンとスチレンの1,3-双極子付加環化反応によって、2,3,5-トリフェニルイソオキサゾリジンという、OとNを含む5員環ヘテロ環が生成します。
📚 参考文献
[4] Padwa, A. 1,3-Dipolar Cycloaddition Chemistry; Wiley-Interscience, 1984. (1,3-双極子付加環化の網羅的総説・教科書)