A061 — Doering-LaFlamme アレン合成

Doering-LaFlamme アレン合成
predict モード — 生成物(ゴール)から電子移動の経路を予測しよう
📄 問題(反応式の原図)問題 A061
出発物質
シクロオクテン (8 員環の環状オレフィン)
  • 試薬(Step 1) CHBr₃(ブロモホルム) (ジブロモカルベン :CBr₂ の前駆体)
  • t-BuOK(カリウム tert-ブトキシド) (強塩基:CHBr₃ の脱プロトン → :CBr₂ 生
  • 成)
  • 試薬(Step 2) MeLi(メチルリチウム) (ハロゲン-リチウム交換 → カルベン生成 → 環拡大)
生成物(ゴール)
1,2-シクロノナジエン(環状アレン) (9 員環に C=C=C(アレン)を含む構造)
溶媒・条件pentane, −15 °C → rt(Step 1)→ Et₂O, −40 °C(Step 2)
Tier 1 注目すべき官能基/原子
この反応の出発物質はシクロオクテンと呼ばれる8員環のオレフィン(炭素-炭素二重結合を持つ不飽和炭化水素の一種)です。反応は大きく分けて2段階あり、それぞれで「カルベン」(炭素原子が2つの結合しか持たず、非共有電子対を1つ持つ、非常に反応性の高い中間体)が鍵となります。最初のカルベンはジブロモカルベン(炭素原子が2つの結合しか持たず、臭素原子が2つ結合した、高い反応性を持つ中間体)で、ブロモホルム(CHBr₃)と強塩基t-BuOKから生成します。このジブロモカルベンがシクロオクテンの二重結合に付加して、シクロプロパン(3つの炭素原子が環状に結合した、ひずみを持つ有機化合物)環を含む中間体を生じます。次に、この中間体にMeLiを作用させると、再びカルベンが生成し、環が拡大して最終的にアレン(連続した3つの炭素原子が二重結合を2つ持つ(C=C=C)累積二重結合構造を持つ化合物)構造を持つ生成物へと変化します。
Tier 2 電子論的根拠
最初のステップでは、t-BuOKの強塩基t-BuO⁻がCHBr₃の炭素に結合した水素原子を脱プロトン(分子からプロトン(水素イオン、H⁺)が引き抜かれる反応)します。これは、CHBr₃の炭素に結合した3つの臭素原子が非常に高い電気陰性度(原子が化学結合において電子を引き寄せる強さの尺度)を持つため、C-H結合の電子が引き寄せられ、水素が酸性度を帯びるためです。脱プロトンによって生じたトリブロモメチルアニオン(⁻CBr₃)は、同じ炭素からBr⁻が脱離するα脱離(同じ炭素原子から2つの原子または原子団が脱離する反応)を起こして、電子不足なジブロモカルベンを生成します。ジブロモカルベンは求電子性(電子を求める性質)を持つ空軌道と、求核性(原子核を求める性質)を持つ孤立電子対(結合を形成していない、原子の価電子殻にある電子対)の両方を持ち合わせるため、シクロオクテンのπ電子(二重結合や三重結合を形成する電子)と相互作用して新しい結合を形成できます。 2段階目では、MeLiのC-Li結合は高度にイオン性(結合が部分的にまたは完全にイオン結合の性質を持つこと)であり、そのカルバニオン(炭素原子が負電荷を持ち、電子対を持つ化学種)性の炭素がジブロモシクロプロパンのC-Br結合とハロゲン-リチウム交換(有機ハロゲン化合物と有機リチウム化合物の間でハロゲン原子とリチウム原子が置き換わる反応)を起こします。これにより生成するモノブロモモノリチオシクロプロパンもα脱離によって新たなカルベン(シクロプロピリデンカルベン)を生成します。この環状カルベンはシクロプロパン環の歪みエネルギー(分子が理想的な結合角や結合長からずれることによって生じる余分なエネルギー)を解消しようとする駆動力により、隣接するC-C結合に挿入し、アレンを形成します。 [出典: 12章 p4]
Tier 3 律速段階・鍵結合
この反応では、最初のジブロモカルベン生成、それに続くジブロモカルベンのオレフィンへの付加、および2度目の環状カルベン生成とそのシクロプロパンC-C結合への挿入が鍵となる段階です。 特に、カルベンの生成は非常に反応性の高い中間体を経るため重要です。カルベンがオレフィンの二重結合に付加する反応は、カルベンの空軌道とオレフィンのπ電子、カルベンの孤立電子対が同時に関与する協奏的反応(複数の結合の形成や切断が同時に、単一の遷移状態を経て起こる反応)であり、新しい2つのC-C結合が形成されます。また、2度目に生成するシクロプロピリデンカルベンがシクロプロパン環のC-C結合に挿入する過程では、ひずみの大きい3員環が開環することで歪みエネルギーが解放され、これが反応の強力な駆動力となります。この過程で、カルベン炭素が両側の炭素と二重結合を形成し、アレン構造が生じます。 [出典: 12章 p4]
Tier 4 矢印の流れ(言語のみ)
1. まず、t-BuO⁻の孤立電子対がCHBr₃の炭素に結合した水素原子を脱プロトンし、C-H結合の電子対が炭素上に移動して負電荷を生じます。 2. 生じた負電荷を持つ炭素のC-Br結合の電子対が臭素原子に移動してBr⁻が脱離し、ジブロモカルベンが生成します(α脱離)。 3. ジブロモカルベンの空軌道がシクロオクテンの二重結合のπ電子を受け入れ、同時にカルベンの孤立電子対が二重結合の炭素を攻撃し、新しい2つのC-C σ結合(原子間の結合軸上に電子密度が集中する共有結合)が形成されてジブロモシクロプロパンが生じます。 4. 次に、MeLiのC-Li結合の電子対がジブロモシクロプロパンのC-Br結合の臭素原子を攻撃し、C-Br結合の電子対が臭素原子へ移動してBr⁻が脱離し、C-Li結合に置き換わります(ハロゲン-リチウム交換)。 5. 生じたモノブロモモノリチオシクロプロパンのC-Li結合の電子対が、同じ炭素上のC-Br結合の電子対を臭素原子へ押し出し、Br⁻が脱離すると同時にLi⁺も離れてシクロプロピリデンカルベンが生成します(α脱離)。LiBrは副生(主生成物と一緒に少量生成する化合物)します。 6. 最後に、シクロプロピリデンカルベンの空軌道が隣接するシクロプロパン環のC-C結合の電子対を受け入れ、同時にカルベンの孤立電子対が、環の開裂によって生じた炭素に移動して新しいπ結合を形成し、環が拡大してアレン構造が生じます。
Tier 5 生成物
この一連の反応によって、出発物質のシクロオクテンは環拡大を経て、1,2-シクロノナジエンと呼ばれる環状アレンが生成します。この化合物は9員環内にC=C=Cという累積二重結合を持つ構造を特徴とします。
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📚 参考文献
[1] Skattebøl, L.; Solomon, S. Org. Synth., Coll. Vol. V 1973, 306. (本問題の出典。シクロオクタ-1,2-ジエンの合成)
[2] Skattebøl, L. Tetrahedron Lett. 1961, 2, 167. (Skattebøl 転位の原著論文。ジビニルシクロプロパンおよびジブロモシクロプロパンからのア レン合成)
[3] Clayden, J.; Greeves, N.; Warren, S. Organic Chemistry, 2nd ed.; Oxford University Press, 2012. (Chapter 40: Carbenes — カルベンの付加反応とシクロプロパン化の詳細) 🔗 doi.org/10.1093/hesc/9780199270293.001.0001
[4] Kürti, L.; Czakó, B. Strategic Applications of Named Reactions in Organic Synthesis; Academic Press, 2005. (Skattebøl 転位の総説と合成応用例)