試薬NaCN(シアン化ナトリウム) (CN⁻ 源、求核剤)NH₄Cl(塩化アンモニウム) (NH₃ 源 + 酸性条件)
溶媒・条件Et₂O–H₂O(ジエチルエーテル–水の二相系)Et = エチル基(C₂H₅)0°C → rt(室温)、その後 aq HCl / reflux
後処理aq HCl(塩酸水溶液)/ reflux (ニトリルの酸加水分解)
この反応では、出発物質であるアルデヒドのカルボニル炭素(C=Oの炭素)が最も電子不足な点として注目されます。また、試薬であるアンモニアの窒素原子とシアン化物イオンの炭素原子は、それぞれ孤立電子対を持つ求核剤として機能します。反応中間体として生じるニトリル基の窒素原子も、反応の後半で水の攻撃を受けやすくするためにプロトン化されます。
アルデヒドのカルボニル酸素はプロトン化されると、隣接するカルボニル炭素の電子不足性(デルタプラス電荷)がさらに増大します。これは、酸素が正電荷を帯びることで、カルボニルのπ電子をより強く引き寄せるため、結果として求核剤が攻撃しやすくなるためです。イミニウムイオンでは、正電荷を持つ窒素が炭素から電子を強く引き付けるため、アルデヒドのカルボニル炭素よりも炭素の電子不足性が高まります。シアン化物イオンは、炭素原子上に孤立電子対を持つ強力な求核剤であり、特に炭素求電子剤(イミニウムイオンの炭素など)に対しては、窒素原子よりも電気陰性度が低い炭素原子側で攻撃する傾向があります。ニトリル基の窒素は、酸性条件下でプロトン化されることで、隣接するニトリル炭素の電子不足性が増大し、求核剤である水の攻撃を受けやすくなります。
[出典: 10章 p6]
このStreckerアミノ酸合成の鍵となるのは、イミニウムイオンの炭素へのシアン化物イオンの求核付加です。このステップで新しい炭素-炭素結合が形成され、これにより出発物質の炭素骨格が一つ伸び、α-アミノニトリル中間体が生成します。このC-C結合の形成が、α-アミノ酸の基本骨格を構築する上で最も重要なステップとなります。
まず、酸から供給される水素イオンがアルデヒドのカルボニル酸素の孤立電子対へ結合し、カルボニル酸素をプロトン化して活性化します。
次に、アンモニアの窒素の孤立電子対が活性化されたカルボニル炭素を攻撃し、同時にカルボニル炭素と酸素のπ結合が酸素へ移動してヘミアミナールが形成されます。
続いて、ヘミアミナールの水酸基がプロトン化されて脱離しやすくなり、窒素の孤立電子対が炭素-窒素二重結合を形成するように電子を押し出すことで水が脱離し、イミニウムイオンが生じます。
その後、シアン化物イオンの炭素の孤立電子対がイミニウムイオンの電子不足な炭素を攻撃し、炭素-窒素のπ結合が窒素へ移動することでα-アミノニトリルが生成します。
最後に、α-アミノニトリルのニトリル基が酸性条件下でプロトン化され、水の攻撃とプロトン移動、アミド中間体形成、さらなるプロトン化と水の攻撃、アンモニアの脱離、そして脱プロトン化を経て、最終的なカルボン酸官能基へと変換されます。
この一連の反応により、出発物質のアセトアルデヒドの炭素骨格を基に、α位にアミノ基(プロトン化されてアンモニウム基)とカルボキシ基を持つ、メチル基が側鎖となったアミノ酸が合成されます。最終生成物は、DL-アラニンのアンモニウム塩として得られます。