試薬H₂SO₄(硫酸) (触媒量、プロトン源として働く)EtOH(エタノール) (求核剤+溶媒を兼ねる)Et = エチル基(ethyl) (CH₃CH₂– の略称)
溶媒・条件EtOH(エタノール), reflux(加熱還流)reflux = 還流 (溶媒の沸点で加熱し続ける操作)
後処理特になし(酸触媒は触媒量)※水を除去すると平衡が生成物側に偏る
この反応では、カルボン酸のカルボニル基(C=O)とその隣接する水酸基(-OH)、アルコール(EtOH)の水酸基(-OH)、そして酸触媒(H₂SO₄)から供給されるプロトン(H⁺)が中心的な役割を果たします。
カルボニル炭素は、電気陰性度の高い酸素原子に電子を引きつけられるため、常に電子不足(デルタプラス、δ⁺)です。しかし、アルコールは弱い求核剤(電子対を与える能力が低い分子)であるため、そのままではカルボニル炭素を十分に攻撃できません。そこで、酸触媒がカルボン酸のカルボニル酸素にプロトン化(H⁺が結合すること)することで、カルボニル炭素の電子不足がさらに強まり、求核性が活性化されます。これにより、アルコールの酸素が持つ孤立電子対がカルボニル炭素を攻撃しやすくなります。
この反応の律速段階(反応全体の速度を決める最も遅い段階)は、プロトン化されて活性化されたカルボニル炭素に、アルコールの酸素の孤立電子対が求核攻撃を行う段階です。この攻撃により、カルボニル炭素はsp2(平面三角形)からsp3(正四面体)へと混成が変化し、四面体中間体と呼ばれる構造が形成されます。教科書抜粋(10章 p9)によると、アルコールやカルボン酸の置換基が大きくなると、この求核攻撃の段階で立体的な障害が起こり、反応速度が低下することが知られています。
[出典: 10章 p9]
1. 酸触媒由来のプロトンが、カルボン酸のカルボニル酸素の孤立電子対に結合します。これによりカルボニル酸素が正電荷を帯び(オキソニウムイオン)、カルボニル炭素の電子不足がさらに強まります。
2. エタノールの酸素の孤立電子対が、活性化されたカルボニル炭素を攻撃します。同時に、カルボニルC=Oのπ電子対が酸素原子へ移動し、四面体中間体が形成され、エタノール由来の酸素が正電荷を帯びます。
3. この四面体中間体中の、エタノール由来の正電荷を帯びた酸素に結合する水素が、溶媒の塩基(例えばエタノール)によって引き抜かれ、中性の四面体中間体となります。
4. 中性の四面体中間体中の、カルボン酸由来の水酸基の酸素が、酸触媒由来のプロトンに結合します。これにより水酸基が水分子として脱離できる「良い脱離基」へと変換されます。
5. エタノール由来の酸素の孤立電子対が、炭素との二重結合(C=O)を再形成するように電子を押し込みます。同時に、プロトン化された水酸基(水分子)が炭素から脱離します。これによりプロトン化されたエステル中間体が生成します。
6. プロトン化エステル中の正電荷を帯びた酸素に結合する水素が、溶媒の塩基によって引き抜かれ、中性のエステル生成物が生じます。この水素は酸触媒のプロトンとして再生され、次の反応サイクルに再利用されます。
最終生成物は、カルボン酸とアルコールから脱水縮合によって得られるエチルエステル官能基を持つ化合物、安息香酸エチルです。この反応では、触媒のプロトンが再生されるため、酸は触媒量で十分です。